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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和60年(行コ)1号 判決 1987年3月30日

福井県福井市中央一丁目20番22号

控訴人

株式会社福井県金融相談所

右代表者代表取締役

林政之

右訴訟代理人弁護士

杉原英樹

福井県福井市春山一丁目6番1号

被控訴人

福井税務署長 北村正士

右指定代理人

小島浩

外7名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が昭和50年12月26日付で控訴人に対してなした左記処分は,いずれもこれを取消す。

(一) 控訴人の昭和45年10月1日から同46年9月30日までの事業年度分法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分

(二) 控訟人の昭和46年10月1日から同47年9月30日までの事業年度分法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分

(三) 控訴人の昭和47年10月1日から同48年9月30日までの事業年度分法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分(ただし,異議決定により一部取消された後のもの)

(四) 控訴人の昭和48年10月1日から同49年9月30日までの事業年度分法人税の更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,異議決定及び裁決により一部取消された後のもの)

(五) 控訴人の昭和49年2月分,3月分,4月分,5月分,6月分,8月分,9月分の各源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分

3  訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  当事者の主張

一  控訴人の請求原因

1  控訴人は,金融業を営む会社であるが,別表(一)ないし(四)の各課税期間に対応する各事業年度分の法人税について,同各別表の(1)欄記載のとおり確定申告をしたところ,被控訴人は,同各別表の(2)欄記載のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という)並びに加算税の賦課決定処分をした。

2  被控訴人は,右各処分と同時に,控訴人に対し,別表(五)の「年月」欄記載の各月分の源泉徴収にかかる所得税につき,同別表の「原処分」欄記載のとおり,源泉所得税の納税告知処分並びに不納付加算税の賦課決定処分をした。

3  控訴人は,1項の各処分につき,これを不服として別表(一)ないし(四)の各(3)欄記載のとおり異議の申立てをしたところ,被控訴人は,同各別表の(4)欄に記載のとおりの決定をなしたので,控訴人は,さらに同各別表の(5)欄記載のとおり,国税不服審判所長に対し審査請求をなしたが,同所長は,同各別表の(6)欄記載のとおりの裁決をなし,昭和54年2月2日,控訴人は,右裁決書謄本の送達を受けた。

また,控訴人は,2項の各処分についても,右の異議申立て及び審査請求をした時と同時にこの申立て等をなし,右の決定及び裁決を受けた時と同時に別表(五)の「異議決定」欄及び「裁決」欄記載のとおりの決定及び裁決を受け,裁決書謄本の送達を受けた。

4  しかしながら,被控訴人の別表(一)ないし(四)の各(2)欄記載の各処分(別表(三)については(4)欄記載のとおり,別表(四)については(4),(6)欄記載のとおり,それぞれ一部取消し後のもの)はいずれも控訴人の所得を過大に認定した違法があり,また,別表(五)の「原処分」欄記載の各処分は,いずれも役員賞与を過大に認定した違法がある。

よって,控訴人は,被控訴人に対し,右各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する被控訴人の認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の主張は争う。

三  被控訴人の主張

1  法人税更正処分の適法性

控訴人の本件各事業年度における所得金額は,それぞれ次のとおりであり,被控訴人の本件各更正処分はいずれもその範囲内でなされたものであるから適法である。

(一) 昭和45年10月1日から昭和46年9月30日の事業年度分(以下「昭和46事業年度分」という)

(1) 所得金額 金1,430万4,675円

本件更正前の所得金額は,79万1,553円であるところ,右は本事業年度の収入利息1,351万3,122円を益金に計上していないので,これを加算すると右所得金額となる。

(2) 加算の事由

次のとおり控訴人には未計上の収入利息がある。

(イ) 控訴人は,昭和42年6月頃,森田祐兵衛(以下「森田」ともいう)が代表取締役をする森栄織物株式会社(以下「森栄織物」という)に対し,200万円を月利5%,弁済期は2か月後との約定で貸付け,その利息20万円を天引き収受するとともに,森栄織物から,同社がその取引先である白井実業株式会社から融通を受けた額面200万円,支払期日60日先の約束手形を受取った。

(ロ) 森栄織物は,右手形決済期日において右200万円を決済できず,その決済資金を得るため,再び利息天引後の金員がこれを上回る額面金額250万円の約束手形を差し入れて,控訴人から貸付を受け,その利息天引後の金員で取立に回っていた先の約束手形を決済した。その後も森栄織物は旧手形の決済期がくると,森田振出又は知人らから融通を受けた約束手形,小切手を控訴人のもとに持参して前同様の条件で貸付を受け,その利息天引後の金員で取立に回っていた先の手形を決済するという方法を反復継続し,その結果控訴人の森栄織物に対する貸金債権は次第に増加し,昭和45年には1,700万円に達した。その後も森栄織物は2か月毎に旧手形を決済するため,利息天引後の受取金額が旧手形金額を超える金額を新手形金額とする新たな手形を控訴人に交付し,これに対応して控訴人から交付を受けた現金で取立に回っていた旧手形を決済した。

(ハ) 昭和47年7月31日,控訴人と森栄織物は,同年6月末日現在において森栄織物が控訴人に差し入れていた約束手形及び小切手の合計金額が4,759万円であることを確認し,右金額に同年7月分の利息241万円を加算して,以後は元本を5,000万円とすることを合意し,森栄織物は,額面5,000万円の約束手形を振り出してこれを控訴人に差し入れ,昭和49年8月26日控訴人に対し右手形と引換えに5,000万円を支払った。

なお,控訴人は森栄織物から差し入れられた約束手形,小切手を別表(三)のとおり森田祐兵衛名義の預金口座で取立を行っていたものである。

(ニ) 右の事実関係,すなわち

① 昭和47年7月1日現在の貸付交付額が4,759万円であること

② 各貸付期間がいずれも2か月であること

③ 各利率がいずれも月5%であること

④ 昭和45年頃からは新規の貸付及び弁済がなかったこと

を基礎として昭和47年7月1日から2か月毎に遡及して貸付交付金及び約定利息金額を算出すると,別表(六)及び(七)のとおりとなる(なお,本件貸付はいずれもいわゆる手形貸付であるが,前記のとおり昭和42年6月から昭和47年7月31日までの間においては,貸付はいずれもその都度控訴人から森栄織物に対し現金を交付して行われ,その回収は貸付時に森栄織物が利息天引後の受取金額が旧手形金額を超える金額を新手形金額とする約束手形,小切手を弁済のため控訴人に交付するという方法でされ,かつ,控訴人は,旧手形を取引銀行を通じて取立に回し,当該手形の支払期日前に,新手形に対応する現金を借主である森栄織物に交付して,旧手形の決済を充てさせていたものである。そうすると,旧手形の決済の都度,旧手形の原因となっている消費貸借については,当然に現実の弁済がされたこととなり,その結果,利息制限超過利息分も含めて,控訴人は現実に約定利息を収受しているというべきであるから,制限超過利息か否かを問うまでもなく,課税上所得として扱われるものである)。右推計手法は,本件において控訴人が収入利息の実額を算定し得る資料を提出しないため,本件金銭消費貸借の実態から最も合理的である。

右のうち昭和46事業年度分の収入利息は,別表(六)のとおり,少なくとも右貸付元金の2か月毎の差額を基礎に合計した1,351万3,122円となるところ,控訴人は右収入利息金額を益金の額に算入しなかった。

よって,右金額は,本事業年度分の益金として加算すべきものであるから,これを加算すると,本事業年度分の所得金額は,前記のとおりの金額となる。

(二) 昭和46年10月1日から昭和47年9月30日の事業年度分(以下「昭和47事業年度分」という)

(1) 所得金額 金2,079万1,770円

本件更正前の所得金額は,128万1,655円であるところ,右は,昭和46年9月1日から昭和47年7月31日までの収入利息1,897万2,873円と昭和47年8月1日から同年9月30日分の収入利息105万8,822円の合計2,003万1,695円の収入利息を益金に計上していないのでこれを加算し,さらに支払利息として損金に計上されたうち101万2,500円は過大計上であるのでこの分を減算し,前年度の所得金額の増加に対応する未納事業税が153万4,080円となるのでこれを損金に加算すると右所得金額となる。

(2) 加算,減算の事由

(イ) 被控訴人の主張1(一)(2)記載のとおりの事由があり,これと同様に本事業年度分の収入利息を計算すると,別表(七)のとおり合計1,897万2,873円となるが,控訴人はこれを益金の額に算入しない。

(ロ)① 控訴人は昭和47年7月頃,森栄織物との間において,同社に対する裏取引の貸付債権に関し,その貸付元本を5,000万円,利息を月5%とする旨の合意をした。

② 森栄織物は,右合意による利息として,昭和48年中に控訴人に対し900万円を支払い,さらに昭和49年3月中に130万円を支払った。

③ 右によれば,900万円は昭和47年8月から昭和48年12月までの17か月間の利息,130万円は昭和49年1月ないし3月分の利息とみるのが相当であり,これを各月の利息として按分すると別表(八)ないし(一〇)のとおりとなり,本事業年度分に該当する右の収入利息(昭和47年8月1日から同年9月30日分)は,別表(八)のとおり合計105万8,822円となる。しかるに,控訴人はこれを益金の額に算入しない。

(ハ) 控訴人は,昭和46年9月7日に森栄織物から1,000万円を借入れたとしてこれに対する支払利息101万2,500円を損金の額に算入しているが,右借入の事実はない。

(ニ) 前事業年度分にかかる本件更正処分によって増加した所得金額に対応する事業税額は153万4,080円であり,これを本事業年度分の損金の額に算入する。

右(イ)ないし(ニ)のとおりの諸事由に基づいて本事業年度分の所得金額を算出すると,前記のとおりの金額となる。

(三) 昭和47年10月1日から昭和48年9月30日の事業年度分(以下「昭和48事業年度分」という)

(1) 所得金額 金482万5,548円

本件更正前の所得金額(控訴人の申告額)は103万7,304円の欠損であるところ,右は収入利息635万2,932円を益金に計上していないのでこれを加算し,さらに支払利息として損金に計上されている180万円は過大計上であるからこの分を減算し,前年度の所得金額の増加に対応する未納事業税が229万0,080円あるのでこれを損金に加算すると右所得金額となる。

(2) 加算,減算の事由

(イ) 被控訴人の主張1(二)(2)(ロ)記載のとおりの事由があり,これと同様に本事業年度分の収入利息を計算すると,別表(九)のとおり合計635万2,932円となる。

(ロ) 被控訴人の主張1(二)(2)(ハ)記載のとおり,控訴人は借入があるとして本事業年度の支払利息180万円を損金の額に算入しているが,右借入の事実はない。

(ハ) 前事業年度分にかかる本件更正処分によって増加した所得金額に対応する事業税額は229万0,080円であり,これを本事業年度分の損金の額に算入する。

右(イ)ないし(ハ)のとおりの諸事由に基づいて本事業年度分の所得金額を算出すると,前記のとおりの金額となる。

(四) 昭和48年10月1日から昭和49年9月30日の事業年度分(以下「昭和49事業年度分」という)

(1) 所得金額 金386万8,923円

本件更正前の所得金額(控訴人の申告額)は,5万0,644円の欠損であるところ,右は,収入利息として計上すべき371万7,567円(森栄織物分の288万8,233円と金谷孝一分の82万9,334円の合計)を益金に計上していないのでこれを加算し,さらに,貸倒損失として損金に計上された64万6,000円は過大計上であるからこの分を減算し,前年度の所得金額の増加に対応する未納事業税が44万4,000円あるので,これを損金に加算すると右所得金額となる。

(2) 加算,減算の事由

(イ)① 森栄織物関係の収入利息不計上分

被控訴人の主張1(二)(2)(ロ)記載のとおりの事由があり,これと同様に本事業年度分の収入利息を計算すると,別表(一〇)のとおり合計288万9,233円となる。

② 金谷孝一関係の収入利息不計上分

控訴人は,金谷孝一に対し,月利4%,弁済期1か月後の約定で別表(一一)のとおり金員を貸付け,同別表記載のとおりの利息を天引受領した。右の収入利息の合計は82万9,334円となる。

③ 控訴人は,右各収入利息の合計371万7,567円を益金の額に算入しない。

(ロ) 控訴人は,昭和49年9月末日において,竹下勝昭に対して180万1,000円の貸付債権を有していたところ,右のうち64万6,000円を貸倒損失として損金の額に算入した。しかし,右金員は回収不能のものではない。

すなわち,債権の貸倒れは債務者が支払能力を喪失し,回収不能となった事実が客観的に認められる場合でなければならないが,竹下に対する貸金は,次のとおりそのような事実が客観的に認められるものとはいえない。

① 竹下は,ビニールホースや家庭用金物の卸売業を営んでいたが,その営業を休止したのは昭和50年2月頃であって,昭和49年9月までは正常に営業を継続していた。

② 当時,竹下は福井市開発町に土地,建物を所有しており,建物中には抵当権等の付着していない物置もあったから無資力ではなかった。

③ 昭和49年10月以降も控訴人と竹下との取引は継続し,昭和50年5月までに限ってみても少なくとも28回,総額1,102万7,100円の貸金取引があり,これら貸金のほとんどは支払期日に決済されている。

④ 控訴人が貸倒損失を計上するに至ったのは,竹下に対して割引した約束手形が不渡となったことによると考えられるが,仮に竹下に支払能力がなかったとしても,手形所持人である控訴人は右手形振出人の平林長次郎及び熊川孝士に対し手形上の権利を行使すれば,右平林らは当時当該手形債務を弁済しうる資力があったから債権の回収ができた筈である。

⑤ 控訴人は,竹下との取引にあたり,同人の実兄である竹下昭夫を保証人として極度額150万円の保証書を差入れさせた。したがって,右保証人に保証債務の弁済を求めれば債権の回収は可能であった。

⑥ 控訴人は,竹下に対する貸金総額180万1,000円のうち64万6,000円を貸倒損失としたが,これは控訴人が竹下に対する貸金回収の可否を吟味せず,不渡となった手形割引にかかる部分の貸金を不良債権とみて貸金の一部につき貸倒損失を計上したものとも認められ,これは債権の評価損を計上したことになるが,法人税法33条2項は,債権についてはこのような評価損の計上を認めておらず,控訴人のなすような貸倒損失の計上は許されない。

(ハ) 前事業年度分にかかる本件更正処分によって増加した所得金額に対応する事業税額は44万4,000円であり,これを本事業年度分の損金の額に算入する。

以上の(イ)ないし(ハ)の諸事由に基づいて本事業年度分の所得金額を算出すると,前記のとおりの金額となる。

以上によれば,控訴人が取消しを求める本件各更正処分は,いずれも右所得金額の範囲内においてなされたものであるから,何らこれを取消さなければならない理由は存しない。

2  重加算税賦課決定処分の適法性

控訴人は,左記各金額につき所得金額及び税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽又は仮装し,その隠蔽又は仮装したところに基づき確定申告書を提出した。

(一) 昭和46事業年度分(期限後申告)

収入利息の不計上分 金1,351万3,122円

(二) 昭和47事業年度分

収入利息の不計上分 金2,003万1,695円

支払利息の過大計上分 金101万2,500円

(三) 昭和48事業年度分

収入利息の不計上分 金635万2,932円

支払利息の過大計上分 金180万円

(四) 昭和49事業年度分

収入利息の不計上分 金371万7,567円

よって,国税通則法68条1項及び2項により,控訴人に対して,本件各事業年度分につき,前記被控訴人の主張1記載の各所得金額に基づき計算した重加算税を課すべきところ,本件各重加算税賦課決定処分における重加算税額はいずれも右計算による重加算税額の範囲内にあるから,右の本件各処分はいずれも適法である。

3  過少申告加算税賦課決定処分の適法性

控訴人は,昭和49事業年度分について貸倒損失として64万6,000円を過大に計上し,所得金額及び税額等を過少に申告したので,国税通則法65条1項により過少申告加算税の賦課決定処分を行ったものであり,右処分は適法である。

4  源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分の適法性

(一) 昭和49年2月ないし6月分及び9月分

(1) 控訴人は,金谷孝一から別表(二)のとおり利息を天引き受領し,これをすべて控訴人の代表取締役である林政之(以下「林」又は「政之」ともいう)に支給した。

(2) 右は,いずれも法人税法35条4項所定の賞与に該当するので,控訴人は所得税法183条1項,186条1項により所定の各所得税(いずれも2%)を徴収して右各支給月の翌月10日までにそれぞれ納付すべきところ,これをなさなかった。

(3) そこで,被控訴人は右各支給金額中の左記の分につき本件納税告知処分をなした。

(イ) 昭和49年2月分 金4万円

(ロ) 同年3月分 金5万6,000円

(ハ) 同年4月分 金4万円

(ニ) 同年5月分 金2万円

(ホ) 同年6月分 金10万4,000円

(ヘ) 同年9月分 金24万8,000円

(4) 別表(五)の「原処分」欄中,右の各月分に対応する「本税額」は,右の金額の2%にあたる前記所得税額である。

右のとおり,右各処分については何ら違法な点はない。

(二) 昭和49年8月分

(1) 控訴人は,被控訴人の主張1(一)(2)(ニ)記載のとおり,昭和49年8月26日,森栄織物から貸金債権5,000万円の弁済を受けたが,これを全額控訴人の代表取締役である林政之に支給した。

(2) 右は前記と同様,賞与に該当するので,控訴人は,所定の所得税2,223万7,548円を徴収して右支給月の翌月10日までに納付すべきところ,これをなさなかった。

(3) そこで,被控訴人は本件納税告知処分をなしたが,右の所得税額2,223万7,548円は,支給金額5,000万円の12分の1に相当する416万6,666円と前月中の給与の金額(社会保険料控除後のもの)13万円との合計429万6,666円に対する所得税法別表第四の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)に基づく税額185万3,129円を12倍した金額である。

(4) 本月分にかかる納税告知処分における所得税額である2,125万6,588円は,右計算による所得税額の範囲内にある。また,本件不納付加算税賦課決定処分の加算税額212万5,600円も右計算による所得税額の10%である222万3,754円の範囲内である。

よって,本件各処分はいずれも適法である。

四  被控訴人の主張に対する控訴人の認否及び反論

1  被控訴人の主張1(一)(1)の所得金額(昭和46事業年度分)及び(2)の各事実は,いずれも否認する。

控訴人ないしは控訴人代表者である林政之と森栄織物との取引は,次のとおりである。

(一) 控訴人は,もと林政之の父である林寿が経営していた会社であるが,昭和45年2月20日に林政之が経営を承継しているものである。控訴人が貸付金として運用している資金は,出資金及び借入金等の特定の資金のみであって,控訴人の資産と経営者の個人資産とは明確に区別されている。

(二) 林政之は,林寿の死亡によりその遺産を相続したが,右遺産中には,林寿が遠縁にあたる森田祐兵衛に頼まれ森栄織物に対して個人で融通していた貸金が1,200万ないし1,300万円程度存在した。右貸金はその後,いずれも期日に決済された。

(三) 林政之は右森田から頼まれ,その後も個人として森栄織物との取引を継続することとなったが,取引は従前林寿がなしていたように倉荷証券を担保とする貸付又は森田の持参する第三者(主として白井実業)振出しの手形を割引くという方法でなされた。政之が割引いた手形については,期日が到来する都度,政之が森田名義の銀行口座を通して取立てに回していた。この取引における貸付額は,おおむね1,200万ないし1,300万円前後であり,2,000万円を超える貸付残高となることはなかった。

(四) ところが,昭和47年8月頃,政之は森栄織物から同社所有の鯖江市水落町所在の山林等(以下「本件山林」という)を担保として提供するとの条件で,多額の融資を要求された。そこで,政之及び控訴人は森栄織物に対する融資を次のように拡大し,これを担保するため本件山林に昭和47年9月1日付で根抵当権(根抵当権者林政之,極度額7,500万円)を設定した。

(1) 政之個人でなく控訴人が,昭和47年9月5日に2,000万円を年1分の利息で森栄織物に貸付けた(この貸付については,昭和49年7月23日に返済を受け,その利息はすべて控訴人の収益として計上されている)。

(2) 政之個人は,右根抵当権設定後ほぼ1年の間に森栄織物に対して手形10通(手形金額合計5,300万円)を割引き,さらに,蝶理株式会社(以下「蝶理」という)に対する森栄織物の債務金400万円を代位弁済して昭和47年12月26日付で先順位の蝶理の根抵当権を抹消し,右400万円を森栄織物に対する貸金とした。

なお,政之の右貸付資金は自己資金のほか知人の平田護及び宮田五百里からそれぞれ1,500万円及び1,000万円を借入れこれをあてた。

(五) 前項(2)で政之が割引いた手形は,いずれも2か月ないし3か月先の期日の手形であり,これを月5分の利息で割引いたものであるところ,森栄織物から頼まれ本件山林を処分する際に一括清算するとのことで,これらの手形については,合わせて借用証を徴求しただけで取立に回すことなく保有していた。なお,利息についても後日一括清算ということで,割引時の天引利息以外には一切受領していない。

(六) ところが,昭和49年6月頃に至り,森栄織物から,借金を一括弁済するから利息を免除してほしい旨の申し入れがあり,政之はこれを承諾し難かったが,これまでの経緯や有力者の口添え等もあったので,やむなくこれを承諾せざるを得なくなり,同年8月26日5,000万円の現金を受領してすべてを清算した。

右のとおりであって,被控訴人の主張はいずれも事実に反するものである。

すなわち,被控訴人の主張する5,000万円の貸付は,右のような状況で林政之個人が借入金等を運用してなしたものであるから,これを控訴人の所得の基礎とすることなど,とうていなしえないのである。

また,右貸付は,根抵当権設定後である昭和47年9月以降に数回に分けてなしたものであって,貸金債権の額が1,700万円に達した昭和45年以降,月5%の利息が2か月毎に増加して昭和47年7月末日に5,000万円の貸金債権になったというものではない。

2  同1(二)(1)の所得金額(昭和47事業年度分)は否認する

ただし,支払利息の過大計上があるとの点につき,41万2,500円の限度で過大計上があることを認める。

3  同1(二)(2)の各事実はいずれも否認する。

ただし,右のうち(ハ)の事実については次のとおりである。

(一) 森栄織物からの借入金として計上されている1,000万円は,西畑幸子からの600万円の借入金のことである。

(二) 西畑からの借入れに際しては,利息を支払う旨の合意があったが利息の割合を決めていなかったので,控訴人と西畑との間で争いがあった。

(三) しかし,その後利息を年1割とすることで話がまとまり,昭和46年から昭和49年までの3年間の利息180万円を西畑に支払った。

(四) したがって,年60万円については現実に支払利息があるから過大計上ではない。これを超える部分についての過大計上は争わない。

4  1(三)(1)の所得金額(昭和48事業年度分)は否認する。

ただし,支払利息の過大計上があるとの点につき,120万円の限度で過大計上があることを認ある。

5  同1(三)(2)の各事実はいずれも否認する。

ただし,右のうち(ロ)の事実については,前記3のとおり,西畑からの借入れに対する支払利息が60万円あるから,この限度では過大計上ではない。これを超える部分についての過大計上は争わない。

6  同1(四)(1)の所得金額(昭和49事業年度分)は否認する。

ただし,金谷孝一分の収入利息82万9,334円が益金から除外されている事実は認める。

7  同1(四)(2)の各事実中(イ)②の事実を認め,その余の事実はいずれも否認する。

なお,(ロ)のとおりの申告をしたことは争わないが,竹下勝昭に対する債権は,次のとおり現実に回収不能である。

(一) 貸倒計上した竹下に対する貸金の64万6,000円は,同人から割引いた約束手形3通が不渡りとなったものであるが,これらは現実に回収不能となっている。

(二) 竹下は,昭和49年9月頃すでに支払不能の状態であり,若干の不動産を所有していたとはいえ,高額の抵当権が設定されており,他にも多額の債務を負担していたので,この不動産に強制執行しても右貸金の回収は望めなかった。

(三) 控訴人は,右当時竹下に対して右のほかにも貸金債権を有していたが,これらも何度か手形の差換ないしは書換をした末,回収不能となった。

(四) 昭和49年10月以降の竹下との取引は,いずれも右の手形の差換又は書換であって実質的な取引でなく同人に支払能力があったわけではない。

8  同2の事実は,前記の法人税更正処分を争う範囲で否認する。

9  同3の事実は否認する。

10  同4の事実中(一)の各事実は認めるが,(二)の各事実はすべて否認する。

前記のとおり,森栄織物に対する5,000万円の貸金は,林政之が個人で調達したものを貸付けたのであって,控訴人の資金を融資したものでないから,もともと控訴人に帰属すべきものでなく,したがって,控訴人から政之に賞与として支給されることはありえない。

仮に,森栄織物への右融資が控訴人の営業行為とみなされるとしても,その資金の調達は政之がなしたものであるから,控訴人が政之から資金を借り受けこれを森栄織物に融資したことになるはずであり,そうすると控訴人が5,000万円を政之に交付したのは,単に借入金を返済したというにすぎず,賞与を支給したということはできない。

第三  証拠関係は,本件記録中の原審及び当審における書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  まず,法人税更正処分の適法性(被控訴人の主張1)について判断する。

1  森栄織物からの収入利息について

(一)  成立に争いのない甲第12号証,乙第22ないし第25号証,第58号証の1,2,第60号証,原本の存在及びその成立につき争いのない乙第1号証の4ないし9,第59号証,原審証人福田姫子の証言により成立の認められる乙第1号証の1ないし3,原審証人吉村正吉の証言により成立の認められる乙第11号証,弁論の全趣旨により成立の認められる乙第9,第10,第12,第13,第56号証,第61号証の1ないし4,第81号証,第84ないし第86号証,弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立の認められる乙第82,第83号証の各1,2,原審証人吉村正吉,同福田姫子,同増永太市,当審証人森田信一の各証言,原審における控訴人代表者尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すると,次の各事実が認められる。

(1) 森栄織物は,昭和41年頃経営難に陥り,蝶理の資金援助を受けて内整理をしたが,このとき蝶理に告げることのできなかった債務があり,その決済資金に充てるため,昭和42年6月,取引先である白井実業株式会社から融通を受けた額面200万円支払期日60日先の約束手形を控訴人に差し入れて,控訴人から200万円を月利5%,弁済期2か月後の約定で借り受け,その際2か月分の利息20万円が天引された。

(2) 森栄織物は,右手形決済期日において右200万円を決済できず,その決済資金を得るため,再び額面250万円の約束手形を差し入れて,控訴人から右と同様の条件で貸付を受け,利息天引後の交付金225万円で,控訴人が取引銀行を通じて取立に回していた先の200万円の手形を決済し,余剰金は運転資金に使用した。

(3) その後も森栄織物は旧手形の決済期がくると,同社の代表取締役である森田祐兵衛振出又は他から融通を受けた新たな約束手形を控訴人のもとに持参して前同様の条件で貸付を受け,その利息天引後の金員で取立に回っていた旧手形を決済し,余剰金があれば運転資金に使用するという方法を反復継続し,その結果控訴人の森栄織物に対する貸金債権は次第に増加し,昭和45年には1,700万円に達した。しかし控訴人はその頃から森田振出の約束手形は信用できないとしてその受領を拒むようになったため,森栄織物は,専ら前に差し入れた手形の決済のためだけに,知人や親戚から約束手形や先日付小切手の融通を受けて順次控訴人に差し入れ,交付された利息天引後の金員で取立に回った手形・小切手を決済するようになり,これによってその都度金利分だけ借入総額が増加していくこととなった。この間の取引は,いずれも利息が月利5%,借入期間は手形の満期日や先日付小切手の日付に合わせ,おおむね2か月単位であった。また控訴人は,森栄織物から差し入れられた手形・小切手を,自己の名を隠し,森田祐兵衛名義で開設した数口の銀行口座によって期日に取立をしていた。

(4) 森栄織物の代表者森田祐兵衛は,昭和47年6月30日,他から融通を受けていた手形・小切手が更に取立を受けるとその者らに迷惑がかかると思い,同人振出,同日満期の額面4,900万円の約束手形を控訴人に差し入れたうえ,同年7月31日には,同年6月末日現在において森栄織物が控訴人に差し入れていた手形・小切手の明細とその合計額4,759万円を記載したメモを,控訴人の代表者である林政之に提示してその確認を求め,控訴人との間で,右4,759万円に同年7月分の利息241万円を加算した5,000万円をもって以後の貸金債権の元本とすることを合意し,森栄織物振出の額面5,000万円の約束手形を控訴人に差し入れた。

(5) その頃森栄織物は,控訴人以外の借入先の債務を整理するために,控訴人に新たに2,000万円の借入を申し込んでいたが,控訴人が物的担保の差し入れがあれば右2,000万円の新規貸付に応じてもよいとの意向を示したため,森栄織物はその所有にかかる山林を担保とすることに同意し,同年8月末頃同山林に根抵当権を設定するための白紙委任状を控訴人に交付したところ,控訴人はこれを利用し,同年9月1日付けで代表者の林政之個人を根抵当権者として,前記5,000万円と新たな2,000万円の貸金債権をまかなうことのできる極度額7,500万円の根抵当権設定登記を了し,右登記後の同月5日森栄織物に対し2,000万円を追加融資した。

(6) 森栄織物は,右に確認した5,000万円の債務につき,その利息として昭和48年4,5月頃控訴人に対し900万円を支払い,昭和49年3月には更に130万円を支払った。

(7) 森栄織物は昭和49年にはいよいよ経営を継続することが困難となり,同年3月14日前記山林につき林政之の代物弁済予約の仮登記もなされたので,右山林は控訴人に渡すほかはないと考えるに至ったが,控訴人に差し入れてある手形・小切手の振出人に迷惑がかかってはならないと思い,かつて同社の従業員であり,鯖江市の市会議員である吉村正吉に,控訴人との間の債務の整理を依頼した。吉村は,森栄織物が控訴人のために根抵当権を設定していた右山林が鯖江市の道路建設予定地であるのを知っていたこともあって,右依頼を引き受け,森田と親戚関係にある福田姫子とともに,同年6月頃控訴人を訪ね,森栄織物の債務を確認しようとしたところ,林政之から貸金は1億円を超える旨告げられた。その折,林はこの際9,000万円位で清算する話に応じてもよいとの意向を示したが,それでは前記山林を鯖江市に売却しても到底支払いきれないため,吉村は更に1か月ほど交渉を続け,結局同年7月20日,7,000万円の弁済をもって森栄織物の債務の清算とする旨の話し合いが成立した。そこで吉村は,直ちに2,000万円の小切手を控訴人に差し入れ,右約束を確保するとともに,その翌日頃吉村振出の額面5,000万円の約束手形を控訴人に渡した。右2,000万円の小切手は同月23日林政之名義で取り立てられた。

一方,森栄織物の前記山林は同年8月23日に約8,000万円で鯖江市土地開発公社に買い取られ,右代金の一部として6,400万円が支払われたので,前記吉村の5,000万円の手形の満期は未到来であったが,早急に清算してしまうこととして,同月26日,福井銀行本店において控訴人代表者である林政之に現金で5,000万円が支払われ,それまで森栄織物から控訴人に差し入れられていた手形・小切手が林から返還された。しかし,吉村らの求めにもかかわらず,5,000万円の領収書は林から発行されなかった。

右の結果,前記山林になされていた林名義の根抵当権設定登記は同月26日に抹消され,また代物弁済予約の仮登記も同年10月16日抹消された。

(8) 控訴人は,森栄織物に対する昭和47年9月5日貸付の2,000万円については自己の正規の帳簿に記帳し,これによる利息収入を確定申告したが,昭和49年8月26日決済された5,000万円については全く記帳・申告をしなかった。

以上の各事実が認められる。

控訴人は,右認定に関し,5,000万円の森栄織物に対する債権は,控訴人代表者である林政之が,個人として自己資金や他から調達した資金により貸付けたものであるから,控訴人の債権ではない旨主張する。しかしながら,前掲各証拠並びに成立に争いのない乙第74号証の1,2,弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立の認められる同号証の3,4,第76号証の2,5,原審証人平田護の証言に弁論の全趣旨を総合すると,林は,本訴提起前に税務署からの質問に対して,5,000万円の授受の事実自体を否定しており,本訴提起後も当初は同様に否定していたこと,林個人としては金融業の届出がされていないこと,前記認定のように控訴人自身が自己の貸付と認めている2,000万円についても,これを担保する根抵当権は林個人の名義でなされており,銀行口座なども実質的に控訴人のものが林名義とされ,林個人の名義は控訴人を表示するものとして利用されていたこと等の各事実が認められ,また,林個人が資金を調達した先として主張する宮田五百里や平田護についても,金融業を営む林に多額の資金調達をするのに,利息や弁済期の定めもなされなかったと主張するなど,その源資の貸借関係自体極めて不合理であること,また,平田が林になした貸付の資金とされる平田の北陸電力からの収入も林に対する貸付金額1,500万円には及ばず,これより前に平田自身右収入により返済することとして福井相互銀行から400万円の融資を受けていること,更に,林は本訴提起前税務署に対して平田から借り入れた2,000万円によって鯖江市琵琶山に土地を買った旨述べていること等の事実が認められ,これらの事実に照らすと,貸主は控訴会社であると認めるのが相当であって,林が個人として資金の調達をした事実も,個人として森栄織物に融資をした事実もいずれもこれを認めることができず,前記控訴人の主張に副う原審証人西畑幸子の証言,原審における控訴人代表者尋問の結果は採用できない。

また控訴人は,被控訴人の主張する5,000万円の貸付は,根抵当権設定後である昭和47年9月以降に数回に分けてなしたものである旨主張し,原審における控訴人代表者尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第11号証は右主張に副うものであるが,いすれも前掲各証拠に照らし採用できない。

その他前記認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  ところで,控訴人は本訴提起前に税務署からの質問に対して5,000万円の授受の事実自体を否定し,本訴提起後も当初同様に否定していたものであって,その後右授受の事実は認めたものの,なお収入利息の実額を算定し得る資料を提出しないため,これについては推計せざるを得ないところである。

そこで被控訴人が主張する別表(六)及び(七)の推計方法の合理性についてみるに,右推計方法は,昭和47年7月1日に4,759万円を貸付けたことを前提として,2か月毎に遡及して貸付額を1・1で除し,利息についてはその差額,すなわち貸付後2か月間の利息を弁済期に収受したとするものであり,同年5月1日の貸付を例にとると,控訴人は,同日森栄織物から額面総額4,759万円の手形・小切手を受領して森栄織物に対し4,326万3,636円を貸付け,同日から同年6月30日まで月5%の割合による利息432万6,364円を収受したとするものであり,利率月5%,期限2か月とする消費貸借を,期限毎に利息を支払い,更に元本に右利息額を加えて反復継続した場合の利息収入の推計方法としては合理性があるというべきである。もっとも,前記認定事実によれば,控訴人は,同年5月1日には森栄織物から額面総額4,759万円の手形・小切手を受領し,同日から同年6月30日までの利息475万9,000円を天引した4,283万1,000円を交付しているものであって,右被控訴人の主張は,利息を後払とした点において,認定した事実に合致しない。しかしながら,この方法によると,各貸付金額の差額は被控訴人主張の推計方法より大となり,従って約定利息の額もより大きくなる。そうすると,被控訴人主張の推計方法は,天引計算によるよりも,控訴人にとって有利となるものであるから,本件においては被控訴人主張の推計方法をもって,合理性あるものとして以下判断を進めるのが相当である。

なお,前掲乙第1号証の4ないし7によると,控訴人が森栄織物から差し入れられた手形・小切手を森田祐兵衛名義の預金口座で取立てた状況は別表(三)のとおりであると認められるところ,これによれば,手形・小切手は2か月毎に一括して取立てられたものではなく,また2か月間の合計額も別表(六)及び(七)の各貸付金額より少ないものである。しかし,前記認定のとおり,昭和47年6月末日における差し入れ手形・小切手の額面総額は4,759万円であり,貸付期間は手形の満期日や先日付小切手の日付けに合わせおおむね2か月単位とされていたものであって,森栄織物は,取立に回された手形・小切手を,新たに差し入れた手形・小切手によって控訴人から貸付を受けた金員で決済するという方法を繰り返してきたものと認められるから,別表(三)記載の預金口座以外に税務調査によっては捕捉できなかった預金口座の存在することも推測しうるところであり,同表記載の取立が控訴人のすべての取立状況を網羅したものとはいい難いというべきである。したがって,別表(三)記載の取立状況をもって被控訴人の前記推計方法が不合理であるということはできない。

ところで,利息制限法による制限超過利息は,現実に収受された場合はその全部が貸主の所得として課税の対象となるべきものであるが,未収の場合はその基礎となる約定自体が無効であって,収入実現の蓋然性があるものとはいえないから,法定の制限内の部分のみが課税の対象となるべき所得にあたり,制限超過の部分はこれにあたらないというべきである。したがって,被控訴人主張の約定利息が課税の対象となるべき所得を構成するというためには,これを現実に収受したものといえるかどうかについて検討する必要があるところ,先に述べたように,控訴人が森栄織物に対してなした実際の貸付は,差し入れられた手形・小切手の額面金額から利息を天引しているものであり,その時点で制限超過利息を収受しているとみうること,森栄織物が控訴人に差し入れた手形・小切手が4,759万円となるまでは,差し入れ手形・小切手はすべて控訴人の取引銀行によって取り立てられ,決済されていること,控訴人も金額は異なるものの,昭和47年8月頃以前は森栄織物から差し入れられていた手形・小切手が取立により決済されたことについて自認していることからみて,昭和47年3月1日貸付分までの約定利息は現実に収受されたものというべきである。けだし,手形・小切手が決済されたことにより,その原因関係たる消費貸借もまたこれによって終了し,弁済がなされたといいうるからである。

しかし,別表(七)の昭和47年5月1日の貸付金は,その際受領した4,759万円の手形・小切手が取立により決済されず,同年7月31日に同年7月分の利息241万円を加算して5,000万円の債権としたにすぎないものであり,前記認定のとおりその後昭和48年4,5月頃まで利息の支払がなかったのであるから,昭和47事業年度に現実にその利息を収受したとはいえない。そうすると,別表(七)の昭和47年5月1日及び同年7月1日の各貸付にかかる約定利息については,法定の制限内の部分のみが課税の対象となるべき所得となるものである。したがって,昭和47年5月1日以降は,同日の貸付額4,326万3,636円を元本として同年9月30日まで年15%の割合によって算出した利息271万2,842円が収入利息となるにすぎない。そうすると,昭和47事業年度における森栄織物からの利息収入は,別表(七)の昭和46年9月1日,同年11月1日,昭和47年1月1日,同年3月1日の各貸付にかかる約定利息の合計額1,223万6,509円に右同年5月1日から同年9月30日までの収入利息271万2,842円を加えた1,494万9,351円となる。

先にみたとおり,控訴人は昭和48年4,5月頃貸金5,000万円に対する利息として900万円を受領している。これを同年5月末日に受領したものとすると,貸付金4,326万3,636円に対する昭和47年5月1日から昭和48年5月31日までの制限内利息は702万8,809円となり,右収受利息900万円はこれを超過する。しかしながら,右利息は控訴人が5,000万円の貸金債権があるものとして受領し,その超過分を元本に充当しているものではないと認められるので,右超過分をも含めて利息収入となるところ,右900万円のうち271万2,842円は前事業年度分の収入となるものであるから,これを控除した628万7,158円が昭和48年5月末日における収入利息となる。

そして,その後昭和48事業年度末まで森栄織物から利息が支払われていないので,右期間中は制限内利息のみが収入利息となるところ,利息制限法によると,昭和48年5月末日に支払われた制限超過利息197万1,191円(収受利息900万円から制限利息702万8,809円を控除した残額)は前記貸金元本4,326万3,636円に充当され,その結果残元本額4,129万2,445円に対する年15%の割合による利息が生じることとなるから,これによって右期間内の収入利息を算出すると207万0,278円となる。そうすると,昭和48事業年度における森栄織物からの収入利息は835万7,436円となる。

次に昭和49年3月中に支払われた130万円についてみるに,控訴人はこれを貸金5,000万円に対する利息として受領し,制限超過利息を元本に充当する趣旨で受領したものではないと認められるところ,前記のとおり利息制限法による昭和48年6月1日における貸金残元本は419万2,445円であるから,同日から昭和49年3月末日までの制限内利息は515万8,727円となる。前記130万円は右制限内利息の範囲内であり,当然に収入利息となるものであるが,前述した昭和48年6月1日から同年9月末日までの制限内利息207万0,278円にも満たないものであるから,昭和48事業年度分の収入利息として計上ずみであって,その一部として入金されたものにすぎない。

前記認定事実によると,森栄織物から昭和49年8月26日5,000万円が支払われているところ,そのうち4,129万2,445円は前述した貸金元本として支払われたものといえるから,これを控除した870万7,555円は利息として収受したこととなる。ところが,右貸金元本に対する昭和48年6月1日から昭和49年8月26日までの制限内利息は767万0,212円であって,右収受利息はこれを超えるものであるから,その全額が収入利息となる。そして,そのうち金207万0,278円は昭和48事業年度分の収入利息として既に計上されているから,結局昭和49年事業年度分の収入利息はこれを控除した663万7,277円となる。

以上の各利息は,いずれも控訴人の収入利息として,各事業年度に対応する分を計上すべきものであるが,本件更正処分前においては,いずれの事業年度分も右の計上がなされていないことが認められるから,各事業年度分の控訴人の申告した所得額に右を益金加算すべきである。

2  借入金に対する支払利息について

控訴人は,昭和47,48各事業年度分につき,森栄織物から借入れた1,000万円に対する利息として,それぞれ101万2,500円,180万円を各年度に支払った旨申告したが,森栄織物からの借入れが存在しないことは,当事者間に争いがない。

右の計上について,控訴人は,右利息は,西畑幸子から控訴人が借入れていた600万円に対する利息として,昭和47,48事業年度分につき各60万円の限度で正当なものである旨主張する。

しかしながら,控訴人の右主張に副う原審証人西畑幸子の証言及びこれにより成立の認められる甲第8,第9号証の各1,2は,次の認定判断に照らして採用し難い。

まず,元本の弁済から6年を経過した後に利息のみを支払うこと自体極めて不自然である。次に成立に争いのない乙第2号証によれば,西畑は国税調査官に対して利息の約定はなかった旨述べていたことが認められ,また,右利息の支払時期が本訴の提起後であること,西畑幸子と控訴人との関係等をも併せ考えると,昭和55年になされた右合計180万円の授受は,控訴人の西畑に対する600万円の借入金の利息として支払われたものと認めることはできず,少なくとも,本件係争年度中において右利息債権が確定的なものでなかったことは明らかである(控訴人も,貸借の当初において年1割という利息の約定がなかったことは自陳しているところである)。

そうすると,控訴人が森栄織物に対する支払利息として計上した分は,すべて過大計上と認めるのが相当である。

3  金谷孝一からの収入利息について

控訴人が,金谷孝一に対し,月利4分,弁済期1か月後の約定で,別表(一一)のとおりに金員の貸付をなし,右によって合計82万9,334円の利息を得たことは当事者間に争いがない。

右の分は,昭和49事業年度分の控訴人の収入利息として計上されるべきところ,控訴人はこれをしていないので,右金額を益金に加算すべきである。

4  竹下勝昭に対する貸倒損失について

控訴人が,昭和49年9月末日において竹下勝昭に対して有していた債権金180万1,000円のうち64万6,000円を貸倒損失として損金に計上したことは,当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨によれば,右は控訴人が竹下に貸付をなすに際し,同人が裏書をした約束手形3通(振出人平林長次郎のもの2通と同熊川孝士のもの1通)を受けていたが,右3通がいずれも右事業年度内において不渡りとなったので,その合計額を貸倒損失として計上したものと認められる。

ところで,本件のように債権が法律的に消滅しない場合に,これを貸倒れとみるためには,その回収が客観的に不能と認められる状況の存することが要求されるものと解するのが相当であり,回収不能が客観的に明らかとなった場合には,その明らかとなった時点の事業年度において,貸倒れとして損金の扱いをなしうるものというべきである。

控訴人は,この点につき,貸倒れとして計上した債権は,現実に回収不能となっている旨主張するが,成立に争いのない乙第3ないし第8号証,第14ないし第21号証及び原審証人竹下勝昭の証言(認定に反する部分を除く)によれば,竹下は,福井市開発町に土地,建物を所有しており,その中には昭和49年当時抵当権等何らの負担も付着しない物件が存在したこと,昭和49年10月以降も控訴人と竹下との取引は継続していたこと,控訴人と竹下との取引について竹下の債務は同人の兄である竹下昭夫が150万円の限度で保証しており,竹下昭夫所有の不動産も存在したこと,控訴人は不渡りの約束手形の振出人等に対し支払を求めることもでき,振出人らはいずれも不動産を所有していたこと等の事実が認められ,これらの事実からすれば,控訴人が貸倒損失を計上した昭和49事業年度の終日である昭和49年9月30日までに,本件の合計64万6,000円の債権の回収が客観的に不能であることが明らかであったとは,とうてい認められない。

控訴人は,このような事情の存否を十分に検討しないまま,約束手形が不渡りとなったことの一事によって,竹下勝昭に対する債権の一部である右約束手形の合計金額を貸倒れに計上したものと考えざるをえない。

そうすると,控訴人が昭和49事業年度分において貸倒損失として計上した64万6,000円は,貸倒れと認められず,また,その他これを損金として計上する事由は存しないものと認めるのが相当である。

三  以上の認定判断によれば,森栄織物からの収入利息は,昭和46ないし49各事業年度分に相応する分を各事業年度の益金として計上すべきであり,金谷孝一からの収入利息は昭和49事業年度分の益金として計上すべきである。また,昭和47,48各事業年度分において森栄織物への支払利息として損金計上された分は,全額架空計上であるからこれを訂正し,さらに,昭和49事業年度分において竹下勝昭に対する債権の貸倒損失として損金計上された分も同様に訂正されるべきである。

これにより,各事業年度分に対する本件更正処分の当否を検討すると,次のとおりとなる。

1  昭和46事業年度分

本件更正処分前の控訴人の所得金額は,79万1,553円とされていたところ,前記認定のとおり,右に含まれていない森栄織物からの収入利息が存することが明らかである。したがって,本事業年度分に相当する分(別表(六))の1,351万3,122円を右に加算した1,430万4,675円が本事業年度分の控訴人の所得であり,これに対して法人税が課せられるべきものである。

ところで,控訴人が取消しを求める本件更正処分においては,控訴人の所得金額を893万2,843円と認定して,これに対して所定の法人税を課すものであるから,右更正処分は,控訴人の所得の範囲内でその所得金額を認定して課税しているにすぎず,これを取消すべき理由は存しない。

2  昭和47事業年度分

本件更正処分前の控訴人の所得金額は128万1,655円とされていたところ,前記認定のとおり,右には森栄織物からの収入利息のうち本事業年度分に相当する分の1,494万9,351円が益金に含まれていないこと及び森栄織物に対する支払利息として損金に計上されている101万2,500円については,その事実が存在しないことが明らかであるからこれらを加算,減算すると1,724万3,506円となる。

一方,前事業年度分の所得金額の増加に対応して増加する事業税額を算出すると,153万4,080円となる。この事業税の未納分を本事業年度分の損金として前記金額から減算すると1,570万9,426円となり,これが本事業年度分の控訴人の所得であり,これに対して法人税が課せられるべきものである。

ところで,控訴人が取消しを求める本件更正処分においては,控訴人の所得金額を291万0,803円と認定して,これに対して所定の法人税を課しているものであるから,右更正処分は,控訴人の所得の範囲内でその所得金額を認定してこれに課税しているにすぎず,これを取消すべき理由は存しない。

3  昭和48事業年度分

本件更正処分前の控訴人の所得金額は,103万7,304円の欠損とされていたところ,前記認定のとおり,右には森栄織物からの収入利息のうち本事業年度分に相当する分の835万7,436円が益金に含まれていないこと,及び森栄織物に対する支払利息として損金に計上されている180万円についてはその事実が存在しないことが明らかであるから,これらを加算,減算すると912万0,132円となる。

一方,前事業年度分の所得金額の増加に対応して増加する事業税額を算出すると168万0,240円となる。この事業税の未納分を,本事業年度分の損金として前記金額から減算すると743万9,892円となり,これが本事業年度分の控訴人の所得であって,これに対して法人税が課せられるべきものである。

ところで,控訴人が取消しを求める本件更正処分(異議申立てにより一部取消し後)においては,控訴人の所得金額を61万5,636円と認定して,これに対して所定の法人税を課しているのであるから,右更正処分は,控訴人の所得の範囲内でその所得金額を認定してこれに課税しているにすぎず,これを取消すべき理由は存しない。

4  昭和49事業年度分

本件更正処分前の控訴人の所得金額は,5万0,644円の欠損とされていたところ,前記認定のとおり,右には森栄織物からの収入利息のうち本事業年度分に相当する分の663万7,277円,金谷孝一からの収入利息(別表(一一))の82万9,334円がいずれも益金に含まれていないこと,及び貸倒損失として損金に計上されている竹下勝昭に対する貸金債権64万6,000円が貸倒れと認められないことが明らかであるから,これらを加算,減算すると806万1,967円となる。

一方,前事業年度分の所得金額の増加に対応して増加する事業税額を算出すると75万7,680円となる。この事業税の未納分を本事業年度分の損金として前記金額から減算すると730万4,287円となり,これが本事業年度分の控訴人の所得であって,これに対して法人税が課せられるべきものである。

ところで,控訴人が取消しを求める本件更正処分(異議申立て及び審査請求によって一部取消し後)においては,控訴人の所得金額を138万7,790円と認定して,これに対して所定の法人税を課しているのであるから,右更正処分は,控訴人の所得の範囲内でその所得金額を認定してこれに課税しているにすぎず,これを取消すべき理由は存しない。

以上のとおりであるから,各事業年度の本件更正処分はいずれも適法であって,これを取消すべき理由はないものというべきである。

四  次に,重加算税賦課決定処分(被控訴人の主張2)及び過少申告加算税賦課決定処分(同3)につき判断する。

前記認定事実によれば,控訴人は,前記認定の収益があったにもかかわらず,これを隠蔽もしくは仮装し,これに基づき各事業年度において前述したとおり収入利息を計上せず,又は存在しない支払利息を計上して確定申告書を提出した(なお,昭和46事業年度分の申告は期限後である)ことが明らかである。

そうすると,右は国税通則法68条の規定により重加算税賦課決定処分の対象となるものであって,控訴人が取消しを求める各処分において課されている重加算税額は,いずれも計算上本来課し得る重加算税の範囲内において課されていることが明らかであるから,本件の重加算税賦課決定処分はいずれも適法であって,これを取消すべき理由はない。

また,昭和49事業年度分に計上された貸倒損失のうち64万6,000円が貸倒れとして計上すべきでないことは前記認定のとおりであるから,この分については国税通則法65条により過少申告加算税の対象となるものであって,本件の過少申告加算税賦課決定処分は右規定に基づくもので適法である。

よって,本件の重加算税賦課決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分は,いずれも適法であってこれを取消すべき理由はない。

五  さらに,源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(被控訴人の主張4)について判断する。

昭和49年2月ないし6月分及び9月分(被控訴人の主張4(一))については当事者間に争いがない。

そこで,同年8月分について検討する。

弁論の全趣旨によれば,前記認定の昭和49年8月26日に福井銀行において森栄織物から控訴人へ貸金の弁済として手渡された現金5,000万円は,その後間もなく,同月中に林政之に支給されたものと認められる。

そして,林は控訴人の代表者であるから,右は控訴人から林に対して支給された臨時的な賞与たる性格の金員であり,したがって,所得税法28条1項にいう給与等(賞与)に該当すると認めるのが相当である。

なお,控訴人は,右の点につき,右は控訴人が林から借入れていた金員の弁済であるかのように主張するが,このような事実を窺わせるに足る証拠もなく,また,前記認定の事実経過に照らしても採用できない。

したがって,控訴人は所得税法183条,186条の規定に基づき所定の所得税を徴収して支給月の翌月の10日までに納付すべき義務があると認められるところ,控訴人がこれをなしていないことは明らかである。

そして,控訴人がこれをなさないことについて,正当な事由が存在するものとは認められないから,国税通則法67条の規定により,右は不納付加算税の対象にもなるものといわざるをえない。

そこで,まず,右賞与に対する所得税額を算出するに,所得税法186条1項1号ロの規定に基づき,支給金額5,000万円の12分の1に相当する416万6,666円と前月中の給与の金額(社会保険料額控除後のもの)13万円との合計429万6,666円に対する同法別表第四の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)により求められる税金額(林の扶養親族等の数4人)184万8,929円を12倍すると2,218万7,148円となり,これが源泉徴収すべき所得税額となる。

また,これに対する不納付加算税は,国税通則法67条の規定により,221万8,700円となる。

控訴人が取消しを求める昭和49年8月分の源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分における所得税額は,2,125万6,588円であって,右に算出した所得税額の範囲内であり,また,不納付加算税賦課決定処分における不納付加算税額212万5,600円もその範囲内のものである。

したがって,右各処分は,いずれも所定の範囲内でなされた適法な処分であって,これを取消すべき理由はないものというべきである。

六  以上のとおり本件各処分はいずれも適法であり,右各処分の取消しを求める控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって,原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし,控訴費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法95条,89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上孝一 裁判官 紙浦健二 裁判官 森髙重久)

<以下省略>

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